アサート No.494(2019年1月26日)

【投稿】 日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権
                             福井 杉本達也 
                   
1 日立も英原発事業からようやく撤退
 「コストを民間企業が全て負担することには限界がある」。日立は1月17日、英原子力発電所の新設事業を凍結し、201 9年3月期に3,000億円の損失を計上すると発表した。東京電力福島第一原発事故後に安全対策費が高騰し、三菱重工のトルコ案件を含め、日本の原発輸出は全て暗礁に乗り上げた。欧米企業も苦戦が続き、国家が主導する中国.ロシア勢が台頭する。原発ビジネスは世界で「国策民営」の限界を露呈した(日経:2019.1.18)。第二の東芝かと思われていた日立であるが、英での原発撤退が伝わった11日、日立の株価は前日比9%上昇した。市場は英原発からの撤退を株価に織り込んでいる。「原発のように先行き不透明な事業を持つ企業の株を中長期で持ちたいとは思わない」(投資顧問幹部・日経:同上)というのが投資家の本音である。

2 海外では建設費が高騰し撤退、日本国内では旧式の原発を再稼働させる矛盾
 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月15日の記者会見で、福島第一原発事故後に停止している原発について「再稼働をどんどんやるべきだ」と述べた。原発の新設や増設も認めるべきだとの認識を示し、「自治体が再稼働にイエスと言わない。これで動かせない。」と発言した。ほんの10日前、年初の報道各社とのインタビューでは「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」と原発村企業としては正反対の本音発言したことで、安倍官邸から激怒されて慌てて官邸に聞こえるように“原発推進”を叫んだのではないかとみられている。中西経団連会長の新春インタビューについて、東京新聞では「経団連と足並みをそろえて原発再稼働を進めてきた安倍政権。『パートナー』のはずの経団連からも見直し論が出てきたことで、コスト高騰で競争力の失われた原発を無理に進めようとする政策の矛盾が鮮明になっている(東京新聞:2019.1.5)と書いた。日立の川村隆前会長は現在、東電の会長でもある。原発村の中核企業である日立の会長が国策に反旗を翻すというのは政府としては全く「想定外」だったに違いない。日立の英原発撤退発表後も安全運転や福島原発事故の収束のためにも「人材、技術、産業基盤の維持、強化は不可欠だ」と強弁する菅官房長官ではあるが(福井:2019.1.19)、先行きは真っ暗である。

3 再稼働を推し進める決定を下した広島高裁の「伊方3号再稼働差し止め却下」
 伊方原発の3号機再稼働差し止め訴訟においては阿蘇山の破局的噴火については議論されたが、2018年9月25日に出された広島高裁の決定は、原発の立地の適合性は「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念基準とせざるを得ない」との判断枠組みを示した。発生頻度は著しく低く、国が破局的噴火の具体的対策を定めておらず、国民の多くもそのことを問題にしていないことを踏まえ、「破局的噴火で生じるリスクは発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原発の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点におけるわが国の社会通念だと認めるほかない。そこで原発の運用期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り、これを前提として立地不適としなくても法の趣旨に反するということはできない。」として、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」と判断。四国電力が想定する火山灰の堆積量は合理的で、非常用電源確保の対策も取っているとし、噴火による対応不可能な具体的危険性は存在しないと結論付けた。しかし、東日本大震災までの原発の設計方針は、予想されるあらゆる事態に対応するには経済的に無理があるので、発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたものであり、これを高裁決定は「社会通念」と呼んでいる。東日本大震災の地震・津波はこの「社会通念」を根底からひっくり返したのであるが、「決定」は、また2011年以前の方針に逆戻りさせ、原発を何としても再稼働をさせるための「開き直り」である。

4 ようやく「破局的噴火」の調査を始めた原子力規制委
 今年に入り、原子力規制委員会は2021年度にも、鹿児島湾にある火山「姶良(あいら)カルデラ」の海底に地震計などを設置し、地殻変動の観測を始める方針を出した。極めて大規模な「破局的噴火」が過去に起こった火山のデ―タを集め、原子力発電所の安全審査などに活用するとの方針を示した(日経:2019.1.8)。福井県若狭町にある年縞博物館の水月湖の年縞から、姶良噴火は、3万78年(±48年)前と極めて正確に推定されているが、同噴火によって、水月湖の湖底には火山灰が30センチも降り積もったことが年縞から確認される(年縞は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成される。明暗1対の縞が1年に相当し、その縞には過去の気候変動や自然災害の履歴を知る重要な手がかりが記録されており、年代測定の精度を飛躍的に高めることとなった)。火山灰が30センチも稼働中の高浜原発や大飯原発に降り積もれは壊滅である。
 カルデラ噴火は普通の噴火とはメカニズムが違い、エネルギーが桁違いである。日本には屈斜路カルデラ、阿蘇カルデラ、姶良カルデラなどがあり、そのどれもが噴火の可能性を持っている。約7300年前に九州南方の海域で起きた「鬼界カルデラ噴火」では、九州地方から西日本一帯にかけての縄文文化が途絶えた。カルデラ噴火は、日本全体では過去12万年間に10回起きている。
 また、規制委は昨年12月12日に、福井県にある関西電力の美浜、大飯、高浜3原発について、約200キロ 離れた鳥取県の大山で大規模噴火が起きた場合の火山灰の影響評価を見直すよう関電に指示した。 関電は審査申請の際、3原発敷地内への降灰の厚さを10センチと想定し、規制委は妥当としたが、その後、大山からの距離がほぼ同じ京都市で、約8 万年前の地層に30センチの火山灰層があるとする論文が発表されたことを受けての指示である(福井:2018.12.12)。通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもある。「大噴火」は日本の場合、100年間に4〜6回ほどは必ず起きている。だが、20世紀は、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いていた。しかし、そろそろ活動期を迎えている。現代社会では、噴火による被害は甚大である。たった1ミリの火山灰で、空港の滑走路は使えなくなり、鉄道も道路も大混乱になる。電線の切断や水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出る。雪と違って溶けてなくなるわけではなく、被害は長期にわたる。

5 火山の噴火予知はできない
 2014年の御嶽山噴火に続いて、2018年1月の草津白根山の噴火も、警戒レベル1という噴火から遠いと思われてきたものが突然噴火して、大きな被害を生んだ。浅間山や桜島以外のほとんどの火山は観測を開始してから噴火が繰り返されていない。噴火予知のデータとしては不十分である。かつて噴火予知は「見逃し」はないが「空振り」はあると言われた。しかし、地震予知については2017年の秋に政府が“白旗”を揚げが、「噴火予知」も「現在の科学では不可能」ということが明らかになっている。
 日本は大規模な噴火や地震が繰り返し起きてきた国である。フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)は、安定した地盤に作られていると言われているが、スカンジナビア半島でもこれまで、いくつかの地震があったことは分かっている。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはない。まして、太平洋プレートやユーラシアプレート、フィリピンプレートなどプレートのせめぎ合う地震・火山大国の日本ではそのような場所はない。日立の英原発からの撤退は安全対策費が嵩んだためであるが、既存の再稼働している原発は安全対策を削っているから撤退しないのである。広島高裁はカネに対する欲望を社会に転嫁し、「社会通念」という言葉で表現したが、そろばん勘定で旧式原発の再稼働を推し進めることは必ずや自然のしっぺ返しを受けざるを得ない。

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