アサート No.493(2018年12月22日)

【投稿】仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの---統一戦線論(55)--- 

<<トランプとマクロン>>
 12/8、トランプ米大統領は広がるフランス政府への抗議デモに便乗して「デモや暴動がフランス全土で起きている。国民は環境保護のために多額の金を支払いたくないのだろう」と述べ、「パリ協定をやめよ」とツイッターで発信した。これに対してフランスのルドリアン外相は翌12/9、仏民放テレビで、不快感あらわに「トランプ大統領に言いたい。われわれは米国内の議論に口出ししない。だから、わが国のことも放っておいてほしい」と反論した。
 大規模な抗議デモとなった「ジレ・ジョーヌ」(Gilets Jaunes フランス語でイエロー・ベスト、黄色いベスト)運動は、トランプ氏の軽薄な理解と違って、トランプ氏と同様の金持ち優遇、規制緩和や「小さな政府」路線、市場競争原理主義・新自由主義路線に対する巨大な抗議運動であり、すでにマクロン大統領の辞任を求める政権打倒の運動となっている。
 確かにその発端は、「燃料税引き上げは環境政策に不可欠」だとして燃料税増税をさらに進めることを明らかにしたことにある。すでにマクロン政権は発足以来、ディーゼルエンジン用軽油一リットルあたり31セント(約40円)値上げしただけでなく、来年1月には更に6,5セント課税することを議会で可決させている(レギュラーとハイオクガソリンの増税はその半分強)。軽油・ガソリン価格の約6割が税金であり、なおかつ原油価格高騰で2016年6月以来、ガソリンは14,2%、軽油は26,5%値上がりしているところへ今回の増税である。
 そのマクロン氏は、2014年、前オランド政権で経済大臣に就任した際には、「ディーゼルはフランスの産業政策の主軸だ」と断言していたのである。長年「CO2が少ないクリーン車」と宣伝され、政府の優遇措置も続き、すでにディーゼル車は、1990年代33%から、2000年50%、2008年78%の保有率に達しており、現在も三分の二の保有率を維持している。マクロン氏は、「環境保護のため」というのを口実として「脱ディーゼル」を掲げ、ここに増税の狙いをつけたのである。しかしこの増税は、低所得層を直撃する一方で、増税分はほとんど脱炭素化には使われず、環境保護の口実に反して安価でクリーンな地方の公共交通サービス網の閉鎖が進められている。フランスの緑の党は、この炭素税の19%しか脱炭素化政策に利用されない点を指摘し、この増税に反対している。
 マクロン氏は就任以来、議会過半数確保を背景に、トランプ氏と同様の規制緩和や「小さな政府」路線に基づく「新自由主義的改革」を強権的に推し進め、就任直後には、労働組合の抵抗を押し切って、企業の解雇手続きの簡素化、不当解雇補償額の上限設定などの「労働市場改革」を断行。法人税率の段階的な引き下げ、各省予算の一律削減、雇用契約や農産物貿易の規制緩和や、公共サービス削減など、農村部では郵便局、学校、病院の閉鎖 医療の民営化への段階的な措置などなりふり構わぬ歳出削減を強行。2018年の税制改革では、超富裕層に有利となる金融資産にかかわる富裕税(ISF)を廃止し、逆に、庶民に広く影響のある一般社会貢献税(CSG)の税率引き上げを行い、富裕層に巨額の利益を与える一方、庶民や貧しい層からとりたてる政権への怒りに、「黄色いベスト」運動が火をつけたのである。

<<「民衆の綱領」>>
 そのきっかけは、2018年10月10日、2人のトラック運転手がFacebookのイベントを作成、11月17日にガソリン価格の上昇に対して全国的な封鎖を呼びかけたことにあった。その際、“黄色いベスト”を着用して抗議すること、が呼びかけられたのである。2008年に、フランスではすべての運転者に車両の視認性の高い蛍光黄色のベストを搭載することが安全対策として義務付ける法律が可決されている。したがってこのベストは運転する限り誰もが持っている。まさかこの“黄色いベスト”が「マクロン辞任せよ!」の象徴となり、抗議行動そのものが「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれるとは、政権側は予想だにしなかったであろう。呼びかけに応じて、全国の約2000のグループが、道路、有料道路料金所、ガソリンスタンド、さらには製油所にまで押しかけ、抗議行動やデモを実行。11月19日の「道路封鎖」の日から主要な高速道路や路線の封鎖が拡大、製油所にまで波及、多くのガソリンスタンドに燃料がなくなる事態となった。次いで翌週の土曜日11月24日には全国行動が呼びかけられ、フランス全土での行動と、大規模デモでパリに集結するよう呼びかけられたのである。この日以来、“黄色いベスト”を身に着けた10万人を超すデモ隊が、週末のたびに、パリ中心部や凱旋門の周辺、各地のショッピング・モールなどに集結し、大規模な抗議行動が展開される事態となった。
 パリの抗議行動では、救急車の労働者が労働条件の変更に抗議して国会につながる橋を封鎖、農民が警察の前で肥料を投棄して参加したり、抗議行動を制圧せんとする警察との衝突が各地で発生、これを暴動として、7000名以上もの逮捕者を出している。
 メディアは暴動のみを大きく報道するが、この抗議行動の最大の特徴は、単なる燃料税増税反対から、マクロン政権の新自由主義政策全般に対する闘いへ、あらゆる階層の人々が自らの要求を掲げ、マクロン政権に退陣を迫る巨大な大衆運動へと大きく進展していることである。
 デモには初期から連帯していた農民団体と貨物労組とともに、フランス労働総同盟(CGT)は12月8日を大規模行動の日に決め、他の労組の多くも連帯を示している。中高校生までストライキや学校封鎖でこの運動に参加し、12/6には360の中高等学校の一時的閉鎖 87の学校が全面閉鎖され、一斉検挙された高校生らが頭の後ろで両手を組まされ、ひざまずかされ、機動隊が声を荒らげて脅している映像が公開され、激しい非難が巻き起こる事態となったのである。
 11/29に発表された「民衆の綱領」と題する『黄色いベスト』運動の要求事項は、42項目にわたっており、冒頭、「フランスの代議士諸君、我々は諸君に人民の指令をお知らせする。これらを法制化せよ。」として、最初の10項目では、(ATTAC JAPAN訳)
1)ホームレスをゼロ名にせよ、いますぐ!
2)所得税をもっと累進的に(段階の区分を増やせ)。
3)SMIC〔全産業一律スライド制最低賃金〕を手取り1300ユーロに。
4)村落部と都心部の小規模商店への優遇策(小型商店の息の根を止める大型ショッピング・ゾーン〔ハイパーマーケットなど〕を大都市周辺部に作るのを中止)。+ 都心部に無料の駐車場を。
5)住宅断熱の大計画を(家庭に節約/省エネを促すことでエコロジーに寄与)。
6)〔税金・社会保険料を〕でかい者(マクドナルド、グーグル、アマゾン、カルフールなど)はでかく、小さな者(職人、超小企業・小企業)は小さく払うべし。
7)(職人と個人事業主も含めた)すべての人に同一の社会保障制度。RSI〔自営業者社会福祉制度〕の廃止。
8)年金制度は連帯型とすべし。つまり社会全体で支えるべし〔マクロンの提案する〕ポイント式年金はNG)。
9)燃料増税の中止。
10)1200ユーロ未満の年金はNG。
を掲げている。すべてマクロン政権の新自由主義政策に対する対案である。
 日本でも問題となっている外国人労働者についても、
14)〔東欧等からの〕越境出向労働の中止。フランス国内で働く人が同じ給与を同じ権利を享受できないのはおかしい。フランス国内で働くことを許可された人はみなフランス市民と同等であるべきであり、その〔外国の〕雇用主はフランスの雇用主と同レベルの社会保険料を納めるべし。
と要求している。

<<「怒りの多くは正当だ」>>
 この巨大な運動の中で、マクロン大統領の支持率は26%に急落し、12/1のデモ直前にはさらに18%に下がり、就任19カ月目としては前任者(フワンソワ・オランド大統領)の48%、前々任者(ニコラ・サルコジ大統領)の29%を下回る事態となり、ついに12/4、来年1月からの増税を半年延期すると表明、翌12/5にはさらに来年中の実施は断念することを表明せざるを得なくなった。そして12/10、マクロン大統領はテレビを通じて演説し、「怒りの多くは正当だ。私が責任を取る」と表明し、来年から月額最低賃金を100ユーロ(約1万3000円)引き上げると発表し、残業代と年末賞与への非課税、社会保障増税の一部中止を発表した。しかし、ベニコー労働相は「今の財源では最低賃金を上げることはできない」とテレビ番組のインタビューで答えており、一時しのぎ空約束の可能性が大であり、富裕税の廃止についてはマクロン氏自身が「投資家を誘致し雇用を生み出す目的だ」と述べ、撤回しない意向を表明している。
 当然闘いはまだまだ続くであろうし、拡大し成長するか、縮小し減衰するか不確定である。しかしこの運動が、ここまでの事態をもたらし、大きく前進させてきたもの、それが投げかける問題提起を受け止めることは、日本の野党共闘や統一戦線の前進にとって不可欠と言えよう。
 まず第一に、この運動は既成の運動や政治から独自に自主的に提起され、組織され、なおかつ、上位下達の組織構造を持たずに行動提起がなされ、毎週土曜日の巨大な統一行動への結集を可能とさせたことであろう。同運動には特定の主催者がいるわけではなく、スポークスマンや「代表」のネット投票も行なわれたが、それらは広がらず、代表も組織の構造もない。しかし切実な課題に即して運動はたちまちに組織され、多様な形で急速に拡大したのである。逆に言えば、既成の運動や政治諸勢力が焦眉かつ緊切な課題にいかに鈍感であったかの証左でもある。
 第二に、運動の組織のされ方が上位下達方式では、多様な人々の自主性や創意・工夫が生かされず、その多様性も保証されず、運動の発展・前身の芽が生かされず、つぶされてしまうことである。この運動ではさまざまな立場の参加者が、それぞれの分野の新自由主義政策に反対し、生活の不満と緊切な要求を持って、反マクロンで一致し、結集・参集したのである。分散化や多極化も恐れない、むしろそれらを生かす運動形態が提起されていると言えよう。
 そして第三は、運動のダイナミズムである。韓国の朴槿恵前大統領を退陣に追い込んだ「ろうそく」運動は、「2016年10月29日の夜に最初の徹夜ろうそく集会が行なわれて以来、抗議する人々の数は瞬く間に膨れ上がり、同年12月初旬にはソウル市だけで200万人を超えた。この爆発的な市民行動の主役および特徴については慎重に定義しなければならない。あまりに多くの人が参加し、共感したがゆえに、主役を特定するのは難しい。従来の社会運動組織のメンバーは国会前広場を埋めた人々のほんのわずかな割合しか占めていない。参加者の大半は自分の意志でデモにやってきた人々だ。だが、その人々を烏合の衆と呼ぶことはできない。彼らはソーシャルメディアを介してさまざまなネットワークを作り、広場をその出会いの場に使った。中にはただ自発的に広場に集まった団体もある」(李泰鎬(イ・テホ)韓国・参与連帯(PSPD)政策委員会 委員長)。この運動のダイナミズムが今回の「黄色いベスト」運動にも特徴的にみられる。この運動のダイナミズムをいかに獲得していくかが問われている。もちろんそれは恣意的に獲得できるものではないが、既成の運動や政治組織がその障害となってはならないことを示している。 
 トランプやマクロンの政策、その独裁主義的政治手法で酷似する安倍政権と闘ううえで、この「黄色いベスト」運動が投げかける問題提起は軽視できないと言えよう。
(生駒 敬)

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