ASSERT 493号 (2018年12月22日発行)

【投稿】 安倍2元政治で噴き出す矛盾
【投稿】 水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策
【投稿】 仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの---統一戦線論(55)---
【書評】 『骨が語る兵士の最期──太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実』

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【投稿】 安倍2元政治で噴き出す矛盾
                ―軍拡路線は一元化で暴走―


ゴーンショック
 11月に開かれた、ASEANやG20など一連の国際会議は、米中対立を軸としてロシア、中東が絡み合う混沌とした展開なった。
 国際情勢が不安定さを増すなか安倍政権は、対中、対露融和を見せる一方、とりわけ中国を仮想敵とする軍拡を進めると言う矛盾した政策を一層強めている。これを、従来の対米追従一辺倒の外交を転換し、リスクヘッジを進める中長期的戦略と見る向きもある。
 しかし、自己保身と承認要求の塊である安倍を頂点とする政権に、こうしたグランドデザインが描けるか甚だ疑問と考えざるを得ない。矛盾する動きの背景には官邸に於いて影響力を拡大させる経済産業省と、国家安全保障会議(NSC)―国家安全保障局(NSS)を取り仕切る外務、防衛官僚の勢力争いがあることが明らかになっており「特別なパートナーシップ」を結ぶ国との関係にも影響を与えている。
 11月19日、カルロス・ゴーンらが東京地検特捜部に逮捕された。罪状は金融証券取引法違反であるが、無理筋の指摘が国内外からされており、経産省、日産、東京地検の合作による国策捜査であることは公然の秘密となっている。
 この間日本とフランスは、2014年の外務、国防担当大臣会合を皮切りに、15年には防衛装備品および技術の移転に関する日仏政府間協定、今年に入り物品役務相互協定(ACSA)を締結、さらには仏海軍艦艇の訪日、自衛隊の革命記念パレード参加など、対中国を掲げ軍事提携を進めてきた。
 しかし10月17日には訪仏した安倍と、合同演習の拡大など軍事面での協力を確認したにもかかわらず、手のひらを返したような今回の逮捕劇にマクロンは激怒し、G20で安倍との直談判に及んだ。フランス政府としては安倍政権の一連の対応に不信感を強めたことは疑いなく、今後の軍事協力を含む日仏関係に影を落とすだろう。
 10月の日仏首脳会談時、エリゼ宮の記者会見場に、7月末から日光で行方不明となっているフランス人女性の妹が現れ、早期発見を訴えたが捜査は進展していない。一方ゴーン逮捕の当日フランス検察は、一昨年から不明となっている日本人女性の遺体捜索を打ち切ったことを明らかにした。一連の事件に関係性はないものの両国関係を暗示しているかのようである。
 
ファーウェイショック
 中国に対しても融和と対立の狭間で揺れ動いている。安倍はこの間「自由で開かれたインド太平洋戦略」を「構想」と言い換えるなど、「一帯一路」に関わる投資環境の整備に腐心し、10月の訪中では52件の「商談」が成立した。
 ところが河野は11月23日ローマで開かれた地中海周辺国の国際会議「地中海対話」に出席、「一帯一路」に関し「透明性があれば歓迎」としたものの、複数の国が借金漬けになっていると批判した。「一帯一路」の西端を意識しての発言であると考えられるが、場違いな発言のそしりは免れない。
 またに日本と中国は、電気自動車関連の規格を統一するなど先端技術面での協力を進めているが、ファーウェイ問題ではアメリカに追随し、防衛省、総務省などがファーウエイなど中国製製品の排除を決定した。
 安倍は、G20に合わせた米中との首脳会談で、双方の調停役として振る舞い、「90日の休戦」という結果に安堵していたが、とんだちゃぶ台返しにあった。
 中国製品の排除を決定したのは、12月初旬でアメリカと英語を公用語とする同盟国(ファイブ・アイズ)と日本のみであり、安倍政権の対応が突出していることが判る。
 米中首脳会談時も、裏ではファーウェイに対する捜査は進められていたことが明らかとなっているが、ファイブ・アイズは知っていても日本は知らなかっただろう。
 中国外務省は11月7日の記者会見で日本政府の対応に不満を示した。今回の問題ではカナダ人2名が拘束されているが、日本人も2015年以降8名がスパイ容疑で逮捕され、3名に実刑判決が出ている。今後の日本政府の対応次第では、投資環境にも悪影響を及ぼすだろう。今後安倍政権は米中の狭間でさらなる苦しい立場に立たされよう。
 
蚊帳の外の河野
 安倍政権内の矛盾は日露関係に於いてもより深化している。安倍は11月14日の日露首脳会談を踏まえ、領土問題の着地点を「2島+α」に方針転換したことを事実上認めた。
 毎日新聞によればこの会談の終盤、両首脳は谷内NSS局長、秋葉外務事務次官、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官を部屋に呼び、交渉に入ることを指示したと言う。
 今回の日露交渉は元々経産省マターであった。ロシア経済分野協力担当相の世耕は10月の産経新聞のインタビューで「これまでは日本は領土問題が決着しない限り、経済も動かさないとしてきたが、安倍総理がそれを変えてうまくいっている。これを進め平和条約を締結したい」と得意げに述べている。
 こうしたなか安倍は最も困難な領土問題を、土壇場になって四島原理主義である外務省にポイと投げ渡したのである。
 外相である河野はその場にはいなかったにもかかわらず、 11月23日にローマで日露外相会談が開かれ、難敵ラブロフと相対することになった。
 その後のG20首脳会議に合わせて開かれた日露首脳会談にも世耕は同席したが河野は参加しなかったが、両国外相が交渉責任者となることが決められ、難題を押しつけられることとなった。
 こうしたことが伏線となり、12月11日の外相記者会見は大荒れとなった。ラブロフが「日本が第2次世界大戦の結果を認めなければ話しにならない」と言い切ったことへの対応を問われた河野は逆切れを起こし、記者の質問を遮り4度にわたって「次の質問」を繰り返した。
 自分(外務省)は蚊帳の外であると言いたかったのだろうが、トランプとCNN記者の応酬を想起させるこの醜態は世界に発信された。中国への批判もそうだが、河野は外務大臣と言うより外務省の代弁者であろう。
 翌日菅も自身の記者会見で苦言を呈さざるを得なかったが、長期化し弛緩する政権の中で官邸が、官僚と閣僚を制御できてないことが明らかになった。
 
「空母」保有の目的 
 こうした2元政治によって外交が混迷の度を深める中、12月11日新「防衛大綱」と「中期防」の素案が明らかとなった。これは外務、防衛官僚の独壇場で自民党国防族はもちろん自衛隊制服組の意向をも押さえ込んだものとなった。
 大綱素案では宇宙空間、サイバー分野、電子戦などの新領域での攻防を重視した、「領域横断(クロスドメイン)作戦」を新たな戦略概念として打ち出した。その意味でこの間の政府調達からの中国製品排除は、新戦略のハード面での先取りであり、これに追随するソフトバンク社の対応は「民間防衛」といえよう。
 これとともに焦点化したのが「いずも」級護衛艦の空母化である。鳩山政権で予算化された「22DDH」は改装でF35Bの運用が可能になることは、当時から指摘されていたが現実のものとなった。
 今回与党のワーキングチーム(WT)では専守防衛の観点から「攻撃型空母」か否かを巡り自公間で論議が進められ、F35Bは常時搭載せず必要な場合に運用すること、「母艦」とは呼称せずヘリ搭載護衛艦(DDH)のままとすることなど、で決着したが、これらまったくの誤魔化しである。
 F35Bが運用できれば十分な攻撃能力を保有することとなり、他国への攻撃に使わなければ攻撃型ではないというのは詭弁である。問題は空母を攻撃に使うか使わないかである。
 常時搭載しないと言うのもまやかしである。現在も海自護衛艦の多くは常時ヘリを搭載していないし、アメリカ軍空母も常時艦載機を搭載しているわけではない。航空兵力を保有する海軍は、フランスでもロシアでも必要な場合に空母に搭載し運用しているのである。
 WTの論議では公明党が「垂直離着陸のF35Bは離島でも運用が可能で、空母化そのものが不要」と指摘したが、これは正鵠を得ている。そもそも官邸・NSCは空母を離島奪還で使うことなど本気で考えていない。
 先の国会で共産党により、石垣島を想定した2012年の陸自の図上(シュミレーション)演習結果が暴露された。このシナリオでは「敵」の侵攻で守備隊はほぼ全滅するが増援で奪還する、ことが想定されている。損害については陸戦だけで「敵」の損耗3821人、味方2901人とされており、石垣島民約4万7千人の被害は考慮されていない。
 離島奪還の実例と言える1982年のフォークランド諸島を巡る紛争での戦死者は、海戦を含みイギリス253人、アルゼンチン654人、島民約千人のうち犠牲者は英軍の誤射による3人だけであった。
 石垣島の場合「奪還成功」という都合の良い結果でも、膨大な犠牲が想定されており、これからの兵器の性能向上を考慮すると、南西諸島での武力衝突など不可能なのである。
 官邸・NSCの狙いは、この間の「いずも」「かが」の南シナ海派遣、さらにはジプチ基地恒久化、インドとのACSA締結、シンガポール艦船整備拠点化計画などを見れば、近い将来南シナ海からインド洋、アフリカ沖までの空母部隊によるパトロールが考えられていると見てよい。
 これは「自由で開かれたインド太平洋『構想』」における軍事的プレゼンスの拡大である。海外における権益擁護の為に軍事力を利用することは「専守防衛」の逸脱どころか憲法違反であろう。そのために空母を保有するとは言えないので、「離島奪還」のためという方便を使っているのである。 
 このように、サイバー戦、空母保有など防衛大綱、中期防の矛先は中国に向けられていることは明らかである。軍拡がこのまま進められれば、危ういバランスの上に成り立っている安倍政権の矛盾はますます拡大することとなる。
 安倍政権はこうした混乱を隠蔽し、臨時国会で「移民」法案や「水道民営化」法案を強行採決し、議論の場を封じた後、12月14日に辺野古への土砂投入、18日の新防衛大綱閣議決定などを矢継ぎ早に進めている。
 これに対し未だ野党の足並みは乱れているが、2月の沖縄県民投票、4月の沖縄3区補選から統一自治体選挙、参議院選への展望を指し示すことが求められている。(大阪O)