アサート No.491(2018年10月27日)

【投稿】 デニーさん圧勝が示したもの---統一戦線論(53)--- 

<<自公・「勝利の方程式」、屈辱の敗北>>
 安倍政権6年の「成功体験」、常勝戦術であった、そして自信満々であったはずの「勝利の方程式」は、もろくも決定的な敗北を喫した。沖縄県知事選で玉城デニー候補に、終盤数千票差の大接戦どころか、玉城候補39万6632票対佐喜真候補31万6458票、8万票以上の大差、県知事選史上最多得票を許して敗北するという、自公政権にとって屈辱的な大敗であった。
 この「勝利の方程式」は、今年2月にあった名護市長選、「辺野古問題は終わった話」と位置づけ、辺野古新基地建設問題の「へ」の一言も言わず、徹底的に争点隠しに徹し、米軍基地の跡地利用や沖縄振興策など「未来の話」を前面に戦う、「自民・公明・下地(維新)で絶対に勝てる。勝利の方程式だ」と豪語していた、自公合同選対を組む“名護市長選方式”であった。続く6月の新潟県知事選でも、この“名護市長選方式”が持ち込まれ、原発再稼働問題の争点化を徹底的に回避し、菅官房長官が公明党の自主投票方針の撤回を要請、創価学会のフル稼働につなげた。安倍政権を批判していたはずの政治評論家の森田実氏までもが、公明・創価学会、二階俊博・自民幹事長べったり路線を臆面もなく露呈させ、自公の花角候補の応援に「自ら志願して2回参上し、講演会や街頭での応援をしました」という事態までもたらした。
 この方程式の下、新潟県知事選、直近の名護・石垣・沖縄の3市長選での勝利をそのまま今回の沖縄県知事選につなげるために、安倍政権は自公、創価学会幹部、閣僚、国会議員、地方議員の総動員体制を敷き、組織や運動量で玉城氏を圧倒していたはずであった。
 さらにいわゆる「基礎票」でも前回とは違って自公の佐喜真氏が玉城氏を上回っていたはずであった。前回の知事選で当選した翁長氏の獲得票は36万820票。自民の推した仲井真弘多氏は26万1076票。その差、10万。前回は公明党が自主投票、維新の会の下地幹郎氏も出馬、約7万票を獲得。机上の計算では今回、前回の仲井真氏の票+下地氏の7万票+7〜8万票の公明票で、玉城デニー候補は前回の翁長得票から6万減、佐喜眞候補は仲井眞票を13万上回り、30万票対39万票で、佐喜真候補は玉城氏より「断然優勢」、「勝ちパターン」の典型、楽勝のはずであった。
 その上に「史上最大規模」と言われるほどの自公幹部・議員・秘書が投入され、公明党は5〜6000人もの創価学会員を全国から動員し、原田会長の陣頭指揮で期日前投票へ動員。“名護市長選方式”の産みの親の菅官房長官は、危機管理の要職でありながら、官邸不在という異常事態を承知の上で3度も沖縄に入り、石垣市にまで飛び、宮古島にも足を運び、那覇市では街頭演説にまで立ち、携帯料金4割引き下げなどデマ公約まで公言して陣頭指揮。自民党は企業・団体へ「仕事と金」と引き換えにノルマを課して期日前投票に動員、業界団体に「期日前実績調査票」を提出させる、証拠の投票用紙記入のスマホ撮影まで暴露されるほどの、ヒトとカネと物量、そしてデマと恫喝で圧倒する「本土直営選挙」であった。その規模と動員体制、点検、テコ入れは、過去のどの知事選をも上回る「史上最大規模」のものであった。

<<安倍政権の致命的敗北>>
 しかしこの「本土直営選挙」が完全に裏目に出たのである。各メディアの出口調査によれば、玉城氏は無党派層の7割から支持を得たことが決定的であり、なおかつ、自民支持層の2割、公明支持層の3割程度も玉城氏に流れたことが確実とみられている。自公の「勝利の方程式」は通用せず、崩壊してしまったのである。
 なぜ、安倍政権、自民党と公明党がここまで総力戦を展開し、序盤優勢とみられながらも、ここまで大差の敗北を喫したのか。それは、「対立から対話へ」「沖縄に寄り添う」と言いながら、佐喜真・自公陣営が最後まで最大の争点であった「辺野古新基地建設の是非」について徹底的な争点回避に逃げ込み、逆に露骨な利益誘導の強権的姿勢で沖縄県民を買収しようとする路線に徹したこと、この沖縄県民を愚弄する姿勢が、県民の総意として明確に拒絶されたことにある。沖縄県民が前回の翁長知事誕生に続いて、あらためて「辺野古新基地建設はさせない」とはっきり打ち出した玉城デニー氏を選択し、大差で押し上げた県民の意思、その民意を無視することはもはや不可能な事態をもたらしたのである。権力を総動員し、民意を力ずくで押しつぶそうとした安倍強権政治に対する県民の誇りをかけた怒りの噴出であり、驕れる安倍政権への、そしてこれに追随した公明・創価学会への厳しい審判なのである。
 安倍政権にとっては、まさかの大惨敗を喫したこの屈辱、ダメージは計り知れず、改憲戦略への影響は避けられず、致命的敗北となったと言えよう。自民党総裁3選を決めたばかりの安倍首相にとって、最初の一歩でつまずくどころか、いきなりノックダウン、打ち倒されてしまったのである。政権の“終わりの始まり”、事実上のレイムダック(死に体)化の進行である。
 与党が全力を注いだ選挙、それも大差での敗北は、安倍政権の求心力を決定的に弱体化させたことは間違いない。それは、沖縄県知事選敗北直後の10/2に発足したばかりの第4次安倍改造内閣の布陣にもあらわれている。「全員野球」と言いながら、実態は各派閥割り当ての投げ出し内閣なのである。その新内閣は、もはや政治的・外交的配慮もかなぐり捨てたかつてないほど右翼的で軽薄な閣僚、従軍慰安婦や南京大虐殺の存在そのものを否定する発言をしてきた歴史修正主義者、教育勅語を賛美する前時代的復古主義者、アジアの近隣諸国との外交において差し障りのある問題閣僚、国民主権、基本的人権、個人の尊厳など憲法の基本的価値をまったく理解していない人物のオンパレードである。こんな閣僚の新内閣で、朝鮮半島や東アジアの緊張緩和、拉致問題の解決などありえないし、むしろ、挑発し、緊張激化をもたらすことこそが目的と言われる布陣である。「ほぼ全員ネトウヨ内閣」「歴代超軽量級内閣」「在庫一掃内閣」「総裁選の論功行賞人事」「安倍ご臨終内閣」などと評され、自民党内部からでさえも「閉店セール内閣」、おまけに安倍政権御用達ジャーナリストと言われるあの田崎史郎氏からも、「これまでの安倍内閣でいちばん出来の悪い内閣」という酷評が出る始末である。
 安倍政権の求心力の喪失は、この新内閣への「期待」がたったの8%という世論調査(10/7 毎日新聞)の結果にも表れている。

<<沖縄のチムグクル(真心)>>
 こうした事態をもたらしたのは、もちろん、第一に、辺野古基地建設の是非について、「辺野古新基地建設はさせない」と、これを正面から訴えて翁長氏の遺志を引き継ぐことを明確にした玉城陣営の決定的勝利である。しかし選挙戦突入当初は、オール沖縄の分裂の危機、選挙前のデマ攻撃と佐喜真陣営の大量のヒトとカネと物量大作戦を前にして暗雲が漂っていたのも事実と言えよう。それを乗り越え、克服したのは、デニーさん言うところの沖縄のチムグクル(真心)路線の徹底である。玉城デニーさん、曰く「チムグクルとは、私心のない、見返りを求めない心です。」(『週刊金曜日』10/12号、渡瀬夏彦インタビュー)、それは、徹底した無私、献身、政党エゴ・セクト主義の排除の路線なのである。
 玉城陣営は中盤のヤマ場となる那覇市での8千人集会でも、駆け付けた名だたる野党の大物政治家を誰ひとり壇上に上げず、“ウチナーンチュの戦い”を強調し、候補者自身も支援政党の幹部と肩を並べることをあえてせず、あくまでも「オール沖縄」の候補の立場を堅持し、一貫させたのである。支援政党の支持者よりもさらに幅広い層の支持、無党派層の獲得にこそ重点を置き、デニーさんは「誰ひとり取り残さない政治」こそ「チムグクル(肝心)」とも表現している。支援する野党各党も、その路線、戦術を受け入れ、「オール沖縄」としての闘いを優先させたからこそ、分裂の危機を乗り越え、真心と肝心を結合させることが出来たとも言えよう。
 市民と野党の共闘で、欠けてはならないチムグクル、真心と肝心の結合がここに提起されているとも言えよう。それは、統一戦線の神髄とも言えよう。
 共産党が野党統一候補者調整に際して、「相互推薦・相互支援」を条件とするなどというのは、このチムグクル路線に反するものではないだろうか。「安倍政治を許さない」あらゆる勢力を結集できるかどうか、自民・公明支持者からさえ造反や離反を勝ち取れる、無党派層の圧倒的多数を獲得できる統一戦線のあり方が問われているのである。
(生駒 敬)

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