アサート No.490(2018年9月22日)

【書評】 『「復興」が奪う地域の未来──東日本大震災・原発事故の検証と提言』
              
(山下祐介、岩波書店、2017年2月発行、2,600円+税)  

 本書は、東日本大震災・福島第一原発事故とその後の復興政策に対して、「この災害復興は失敗である」、そして「この復興が失敗だというのは、私が言うまでもなく、多くの人がわかっていることでもあるはずだ」と断罪する。
 「福島第一原発事故では、警戒区域を設定した四町で当自治体に居住する住民・法人のすべてが長期強制避難を余儀なくされた。さらには計画的避難区域、緊急時避難準備区域に指定された市町村も実質的に全自治体ないしは全コミュニティ避難を経験している」。つまり「各コミュニティは、自らを成り立たせるために必要なもののすべてを一度に失ってしまっており、(略)」という状況が生じている。このためこれらにおいては「自然環境」「インフラ環境」「経済環境」「社会環境」「文化環境」という五重の生活環境被害が生じている。
 津波被災地でも同様の生活環境被害が発生しており、「住宅被害は広域にわたり、避難はしばしば地域コミュニティ成員の全員に及ぶ」。
 本書は、このような現実を踏まえれば「本震災・原発事故では、社会の一部が壊れたというのにとどまらず、コミュニティそのものが、あるいはソサエティそのものが壊滅的な打撃を被った、そういった被害が生じている」として、これを「コミュニティ災害」、「ソサエティ災害」と呼ぶ。
 とするならば、原発事故の場合、「本事故からの生活再建・地域再生はこの被害の重さを認識し、これらを回復するものとして出発しなければならない」のが当然であり、津波被災地でもこのような復興政策が構築されるべきであるのは自明の理である。
 ところが現実に実行されている政策は、原発事故では「除染とインフラ整備(加えて新産業による雇用の創出)を進めて帰還を促すだけで、コミュニティの再生は無策のままにある」。
 また「津波被災地では、今、高さ一〇メートル前後となるような巨大な防潮堤が順に建設されている。津波の経験が、コンクリートの巨大な壁で人の住む世界と自然とを分断するという結果を生みつつある。しかも復興がこうした大規模防災土木事業の完成を前提にしているため、防潮堤ができなければ復興を進めることができず、(略)いまだに土木事業以外の進展が見られないという地域がある」。
 この結果、原発事故の「避難者たちには、『被曝を覚悟で帰還するか』『自力で移住するか』の二者択一しかなく、このままで行けば、自力で生活できない人々だけが帰還を選択し、多くの人々は本来『償い』であるはずの賠償を手がかりに、避難先で自らの生活再建を試みるしかなくなっていく。この政策はこうして、帰還するもののみを選別して事業の対象としながら、帰還できないものを復興政策から排除することによって、被災者支援策としての意味をなさない政策になっている」。
 また津波被災地の巨大防潮堤についても、地権者の合意、資材・人材の占有、予算の財源、時間的制約、環境問題等々の問題が立ちはだかっており、「復興事業を進めるほど地域社会は破壊され、人間の暮らしの復興を阻んでいるという悪循環のプロセスに陥りつつある」。
 これら二つの事例を検討すれば、「復興をめぐって、ある方向のみが過度に強調され、そのことを軸に政策が偏向して構築されることによって、現実の復興そのものに障害を来すようなプロセスが生まれている」のである。本書はこれらを「防災至上主義」と「復興至上主義」と特徴づける。
 かくして「被災者には、政府が示す巨大公共事業にのるかのらないかの選択しかない。津波被災地では巨大防潮堤や高台移転、原発事故被害地域では帰還政策(除染とインフラ再建)----被災者・被害者はこれらの政策にのって不本意ながらもその地に身を置くか、それが嫌ならその地を去るしかない」という「選択の強要」が押し付けられる。「要するに、いったんあるところで決まってしまった政策が、既成事実化して路線変更できないような構造」を作り出してしまったという事態なのである。
 つまりここでの決定的な問題点は、「政策フィードバック機構の欠如」であり、本書はこれを東日本大震災の復興政策に限らず、こう批判する。
 「今の私たちが日々進めている政策形成過程(略)には何か大きな欠陥がある。この欠陥を変えることこそが、私たちに課せられた大きな宿題なのだ。そしてそのためには、国民の国策への参与・共同がまずは不可欠であり、いまや国民の参画が次々と封じられつつある以上、このことは絶対的な条件というべきかもしれない」と。
 そして日本学術会議による提言(「東日本大震災からの復興政策の改善についての提言」、2014年)、すなわち「第一の道(政策にのる)、第二の道(政策にのらない)に対し、当事者にとって受け入れ可能な第三の道(オルタナティブな道)」を紹介する。
 それによれば、原発被害地域の第三の道は、「長期待避・将来帰還(順次帰還)」であり、廃炉の行程が三〇年以上かかる見通しから、少なくとも三〇年は避難する権利が保証されなければならないとして、「政策パッケージ(具体的には、二重住民登録、被災者手帳、セカンドタウンなど)を示している。
 また津波被災地における第三の道は、「『減災』による現地復興の道を探ること(第三の道)」=「各地域で減災を実現できる程度にあわせて防潮堤の高さや災害危険区域の再設定を行い、住民たちが暮らしの再建と防災を両立できるプロセスを確立していくこと」とされる。
 このように本書は、「この復興政策は失敗だ」という現実を謙虚に見つめなおし、そこから可能な復興のあり方を再構築することを強調する。(R)

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