アサート No.487(2018年6月23日)

 【投稿】米朝会談・安倍外交破綻をめぐって---統一戦線論(49)-- 

<<朝日と産経、瓜二つ>>
 6/12のシンガポールでの米朝首脳会談の共同声明で確認された4項目とは、
1.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいて新たな朝米関係を樹立していくことにした。
2.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するために共に努力する。
3.朝鮮民主主義人民共和国は2018年4月27日に採択された板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを確約した。
4.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行い、すでに発掘確認された遺骨を即時送還することを確約した。
 以上である。共同声明は、「金正恩委員長とトランプ大統領は、史上初めてとなる朝米首脳会談が両国間に数十年間持続してきた緊張状態と敵対関係を解消し、新しい未来を開いていくうえで大きな意義を持つ画期的な出来事であるということについて認め、共同声明の条項を完全かつ迅速に履行することにした。」で締めくくられている。(以上、平壌6月13日発・朝鮮中央通信による)
 ところが、この米朝会談の結果をめぐっては、アメリカでも日本でも大手マスコミ、主流メディアの否定的な評価が横行している。
 翌6/13の朝日新聞の社説は「その歴史的な進展に世界が注目したのは当然だったが、2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった。最大の焦点である非核化問題について、具体的な範囲も、工程も、時期もない。一方の北朝鮮は、体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た。(「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」について)トランプ氏は記者会見で、それを文書に落とすには『時間がなかった』と認めた。その上で金氏は速やかに動くだろうとの期待を口にした。その軽々しさには驚かされるとともに深い不安を覚える。」と、全く冷笑的な姿勢である。
 そして同じ6/13の産経新聞の社説(「主張」)は「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する 真の核放棄につながるのか」と題して、「世界の注目を集めたシンガポールでの歴史的会談は、大きな成果を得られないまま終わった。…それなのに、トランプ氏が共同声明で北朝鮮の体制保証を約束し、会見で国交正常化への意欲も示したのは前のめりだ。金委員長に最低限約束させるべきは、北朝鮮が持つ核兵器などすべての大量破壊兵器と弾道ミサイルについて『完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)』であるのに、できなかった。トランプ氏は『時間がなかった』と言い訳した。交渉能力を疑われよう。」と述べる。
 朝日と産経が奇しくも全く横一線、瓜二つ、同じ主張を繰り返している。一度ですべて片が付くとでも考えていたのであろうか。それこそおめでたいというものであろう。
 確かに具体的な内容は不十分であるとも言えよう。しかし、段階的、持続的な交渉の出発点として、今回の首脳会談の意義を認識し、評価することが重要である。何よりも、68年にも及ぶ、38度線で対峙する戦争状態を最終的に終結させる重要な第一歩として、板門店宣言を再確認し、東アジアの平和への重要な一歩が踏み出された意義は正しく評価されなければならない。それは、世論調査で、この米朝首脳会談を、韓国人81%、米国人70%が支持(KBSニュース 2018-06-12)しているという結果にも表わされている。この首脳会談に粘り強く導いた韓国の文在寅大統領の支持率は、79%にも達している(6/15 ロイター/イプソス調査)。

<<米韓軍事演習「大嫌い」>>
 さらに問題なのは、こうした世論に逆らうかのように、米韓合同軍事演習中止についてまでも、6/17付・朝日社説は、「在韓米軍は北朝鮮と向き合う最前線であり、対中国でも重要な役割を担う。練度を高め、有事の即応力を維持するために演習は重要だ。東アジアの安全保障に影響を与える方針転換を一方的に打ち出すのは、『同盟軽視』と言わざるを得ない。」とイチャモンを付け、まるで安倍政権の本音の代弁人を買って出ていることである。
 この米韓合同軍事演習について、平壌6月14日発の朝鮮中央通信は、「最高指導者(金正恩委員長)は、朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制を構築するのが地域と世界の平和と安全保障に重大な意義を持つと述べ、差し当たり相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべきだと語った。アメリカ合衆国の大統領はこれに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国に対する安全保証を提供し、対話と協商を通じた関係改善が進むことに合わせて対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した。朝米両首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を進める過程で段階別、同時行動原則を順守するのが重要であることについて認識を共にした。」と発表している。
 一方、トランプ大統領は6/15、「中止」を表明した米韓合同軍事演習に関しては、大統領に就任したときから「大嫌いだった」と述べ、米朝の交渉に支障となり、巨額の経費がかかることから中止するつもりだ、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と説明し、さらにこの中止はトランプ氏の側から金氏に提案したことも明らかにした、と産経新聞が報じている(米韓軍事演習「大嫌い」 トランプ氏、中止を自ら提案 6/17 産経)。
 さらに、トランプ米大統領は6/15、ビデオメッセージを公表し、「平和のチャンス、恐ろしい核戦争の脅威を終わらせるチャンスがあるなら、すべてを犠牲にしてでも追求しなければならない」と訴えている(6/16 時事通信)。
 この「すべてを犠牲」の中には、膨大な費用のかかるこの軍事演習も入っているであろう。中止されては困る軍産複合体の利益も、当然含まれよう。
 こうした動きは、敏感に経済にもすぐさま反映されている。米朝共同声明が発表されるや、「少なくともトランプとキムの間の合意は、しばらくの間、軍事紛争をテーブルから取り除く」との見通しから、米軍需産業株(パトリオットとトマホークのミサイルを作るレイセオン、ペンタゴンに空中ミサイル防衛システムとF-35ステルス戦闘機を供給しているロッキード・マーチン、サイバー戦争やミサイル防衛のノースロップ・グラマン、Apacheヘリコプターと空中給油機製造のボーイング、海軍造船のジェネラル・ダイナミックス)が軒並み下落し(0.2%〜2.6%)、対照的に、ダウ工業株平均は20ポイント上昇している(6/12,米・非営利独立メディア・Common Dreamsによる)。軍産複合体にとっては、平和と緊張緩和は歓迎されざる、不都合な真実なのである。
 どちらから提起したにせよ、「戦争ゲーム」の中止は、大いに歓迎すべきであるし、しっかりと定着させることこそが望まれる。これを不当に貶めることは、好戦勢力を喜ばせるものでしかない。「戦争ゲーム」や軍事力の誇示、緊張の激化ではなく、対話と外交こそが、平和を築く唯一の道なのである。

<<北の「力」が米国に「平和」を強いたのか>>
 6/15、トランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で、史上初の米朝首脳会談を振り返り、正恩氏について「非常に気が合う。とてもいいことだ」と評価し、「今、北朝鮮と非常にいい関係にある。私が就任した時は戦争状態のようだった」とし、核問題を「私が解決した」「誰もが予想していた以上に素晴らしい会談だった」と自賛し、さらに「プーチン氏は数年前まで主要8カ国(G8)の一員だった」と指摘、「北朝鮮もそうだが、仲良くする方がそうでないよりずっといい」と述べ、先進7カ国(G7)の枠組みにロシアを改めて加えるべきだとも主張したのである。おまけに、トランプ氏お気に入りの米FOXテレビのインタビューでは「彼(正恩氏)は強い指導者だ。彼が話す時、国民は直立して聞く。米国民にも同じようにしてほしい」などと、独裁者特有の本音まで漏らしている。
 自ら相手を「小さなロケットマン」と罵り、核攻撃も辞さないと戦争熱を煽っていたことなど、忘れたかのような発言である。自信過剰で、気まぐれ、欺瞞、いじめ、差別的で侮辱的な発言、突然の方向転換など、トランプ氏を特徴づける不安定な性格は、今後とも事態を流動化させる危険性として大いに警戒されなければならない。しかし、首脳会談後の記者会見でトランプ氏が述べた「選挙中にも私は言及した。よくおわかりの通り、米軍を撤収したいのが私の全般的な目標だ。私は多くの損失を持ってくるウォーゲーム(war-game)はしたくない。戦争介入はやらなくてもいい。費用も節減されるだろう。そうなったらとても多くの費用が節減されるだろう」という発言は確かに一貫したものである。しかしトランプ氏の予測しがたい逆戻りを許さない環境づくりをしたのが、韓国の文在寅政権であった。その文在寅政権を登場させた、「ろうそく革命」に象徴される韓国の民衆運動の力が、この新しい歴史的な事態をもたらしたのである。
 同じことは、北朝鮮についても言えよう。ジャーナリストの李東埼氏は、北朝鮮の「力」が米国に「平和」を強いる、という主張を展開されているが(週刊金曜日6/8号・論争欄)、それはある一側面ではあったとしても、もはや「先軍政治」と核開発で疲弊してしまった北朝鮮の経済的苦境と決定的な立ち遅れを打開するためには、大胆な政策転換が不可欠であり、韓国の文在寅政権の登場がそれを力強く後押しをした結果が、4・27板門店宣言に結実し、米朝会談に結び付いた、というのが真実であり、実態であろう。

<<「イチャモンばかり」>>
 元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)副代表・蓮池透氏は、今回の米朝首脳会談について、「マスコミは揚げ足とりばかりしていますが、平和を望んでいないんですか、と言いたくなってしまう。だいたい、昨年まで戦争が勃発するとまで言われたんですよ。それなのにわずか1年足らずで、両国トップが握手をして、これから平和を目指そうという、そうした外交的にもダイナミックな合意のはずなのに、まったく評価しないなんてどうかしています。とくに驚いたのが、米朝会談の後、NHKで過去の核合意破綻の歴史をVTRで繰り返し流していたこと。結局、あなたがたは、また破綻させたいのか。いや、本当に破綻を望んでいるとしか思えない。合意についても『譲歩しすぎだ』とかのイチャモンばかりです。」「拉致問題をアメリカに頼むなんて筋違いだし、ありえない話で、大変恥ずかしいことです。そういう意味では、米朝会談は『安倍外交』の敗北なのだと思います。しかも、安倍さんや政府は、ただのアメリカ頼みなのに、家族や国民に過大な期待を与えている。ほんとうに罪作りだと思います。」「だいたい今頃になって『北朝鮮と向き合い』って、臆面もなく言っているのか、という話でしょう。だったら、最初からなぜ向き合わないのか。小泉訪朝から16年も経って、ようやく北朝鮮と向き合うってどういうことですか、この態度の豹変は。だったら最初から向き合ってください、としか言いようがない。」と、ずばり問題の本質を突いている(リテラ 2018.06.15 蓮池透が怒りの告白)。
 このような安倍政権の豹変を、日本の野党共闘・統一戦線がただ見過ごしていては、安倍政権の退陣はますます遠のいてしまうであろう。
 さきの6/10・投開票の新潟県知事選挙の結果は、そのことを暗示しているのではないだろうか。「与党の争点隠しが功を奏した」「メディアもまた争点隠しに寄与した」「池田候補の主張を丸呑みした抱き着き選挙に成功」「旧態依然の土建選挙」等々、これら与党側の選挙戦略は今回初めてのことではない。彼らの豹変は重々承知のはずである。それらを敗因にして、ここまでよく頑張った、善戦した、野党共闘も前進した、では、何の教訓も得られないし、今後に生かされはしない。
 まず、野党統一候補を擁立するにあたって、前知事が不徳の致すところ、不祥事で辞任に追い込まれた、そのことをまずもって真摯に有権者に謝罪・反省する言葉がなぜ発せられなかったのであろうか。次は、この候補です、よろしく、では済まないはずである。誠実さが疑われたとも言えよう。信頼度が低下したままでは、人々の底力をくみ取ることも、幅広い人々の結集を図ることもできないし、既得票だけでは勝利し得ないのである。
 第二に、安倍政権は、成長政策を掲げながら、実は徹底した弱肉強食の規制緩和、緊縮政策、社会保障破壊政策を推進していることは、誰もが肌身で実感していることである。この実感を無視した選挙戦はありえないし、反原発だけでは、肩透かしに追い込まれることが自明であった。反原発政策を丸呑みにされたのであれば、その嘘を暴くと同時に、相手候補の弱点をさらけ出させ、彼らを上回る、有権者の切実な要求に根差した、地元に密着した大胆な反緊縮政策を提起すべきであった。
 まだまだいくつもの教訓があるであろうが、少なくともこの二点は、厳しく反省される必要があるのではないだろうか。
(生駒 敬)

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