ASSERT 480号 (2017年11月25日発行)

【投稿】 破綻する安倍アジア戦略−米、中、韓に力及ばず孤立化へ―
【投稿】 「ルールは変わった」―占領軍最高司令官として振る舞ったトランプとアジアで孤立する日本
【投稿】 ボトムアップ型の民主主義をめぐって---統一戦線論(42)--- 

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【投稿】 破綻する安倍アジア戦略
          −米、中、韓に力及ばず孤立化へ―

 
<トランプに阿諛追従>
 アメリカ大統領選から1年を迎えようとする今秋、全米で主要メディアによる世論調査が行われ、10月下旬相次いでトランプ政権に対する厳しい結果が明らかになった。さらにトランプが外遊中の11月7日には、ニューヨークの市長選、ニュージャージー、バージニアでの州知事選挙で、いずれも民主党候補が勝利し、来年の中間選挙の動向を示唆するものとして注目された。
 こうしたなか約半月に渡るアジア歴訪に出発したトランプは、是が非でも成果を持ち帰りらなければならず、訪れた各国で押し売り同然の露骨なセールスを展開した。
 トランプが会ったアジア各国首脳で、最もこの期待に応えたのは言うまでもなく安倍であり、最高レベルの歓待を持って迎えたのであった。しかしトランプは、あの手この手揉み手で待ち受ける安倍を後目に、11月3日ハワイのアリゾナ記念館を訪れた後、自らのツイッターに「リメンバー・パールハーバー」と投稿した。
 昨年12月の安倍真珠湾訪問を帳消しにするかのような呟きに、日本政府関係者は「北朝鮮対するメッセージではないか」と苦しい弁明をしていたが、スタッフの投稿という見方もあるものの、トランプの性格からしてこれはそのままの意味であろう。安倍に先制攻撃をみまった後、大統領専用機で横田基地に到着したトランプはヘリに乗り換え、川越市のゴルフ場に向かった。
 お気に入りの松山英樹プロを従えたトランプは上機嫌でホールを回り、途中バンカーショットに苦しむ安倍を後目に、次のショットへと向かってしまった。焦った安倍はグリーンに上ろうとして足を滑らせ転落、ボールはフェアウェイに戻ったものの、自らをバンカーに入れるという椿事が発生した。
 この様子は空撮され世界に配信されたが、トランプにはピコ太郎以上に受けたようである。8日、北京に到着したトランプは、紫禁城の石段で習近平に対し「階段で転倒しないように、カメラに撮られてしまうよ」と語りかけ、早速ネタに使っていた。トランプも相当人が悪いといえ、ベトナムでも「感動した、素晴らしい体操選手だ」などと茶化し続けた。こうしたことにこそ菅は「独島エビ」に反発したように「どうかと思う」と不快感を表すべきではないか。しかし米中首脳のアイスブレイクに貢献したのであれば、幇間安倍の真骨頂とも言うべきものであろう。
 プレー後も安倍は一旦私邸に戻り、夫婦で帝国ホテルに向かい、そこから大統領専用車に便乗、銀座の鉄板焼き店を訪れると言う接待役に徹した。
 ゴルフ場でも鉄板焼き店でも、二人は北朝鮮や貿易に関して「リラックスした雰囲気で重要な話をしたと」と勿体をつけているが、正確な発言内容は記録されておらず、そこでの会話が今後の政策を左右することになれば、世論はもとより議会をも軽視したことになり、批判は免れない。
 
<米兵器を爆買い>
 こうして和気藹々と同盟関係を演出した安倍であったが、二人がプレー中に都内で行われた河野太郎とライトハイザー通商代表の会談では、日米FTAに言及があり、会談後河野は「今後麻生とペンスで論議をしていく」と説明、首脳の蜜月とは裏腹の緊張した舞台裏の一端が明らかになった。
 トランプも安倍のあまりの低姿勢に、6日午前の日米企業人との会合で「日本との貿易は公正ではなく是正が必要」と本音を吐露、続く昼食会、首脳会談でも貿易不均衡の是正を要求した。
 トランプは訪日前に「日本はアメリカのミサイルを購入していれば北朝鮮のミサイルを撃ち落とせただろう」と述べたと言われているが、首脳会談の場でも北朝鮮の脅威や貿易赤字の是正を理由に、アメリカ製兵器の購入を求め、今回の訪日目的を億べもなく明らかにした。
 会談後の記者会見でトランプは「首相はアメリカから様々な兵器を買うことになる」と宣言、安倍も「防衛装備品を購入していくことになると思う」と力なく頷首するしかなく、貿易問題総体も日米経済対話=事実上のFTA交渉で成果を出すことを約束させられてしまった。
 当初安倍が日米首脳会談の最も大きな目的とし、総選挙の最大の争点として利用した、北朝鮮に対する対応は「核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する圧力を最大限まで高める」という、これまで何度も確認されてきたような抽象的な内容にとどまった。これは、北朝鮮の脅威を日米ともに自らの政権の保身の為に利用してきた当然の帰結である。
 安倍は日米同盟アピールのため、トランプの護衛艦「いずも」乗艦を求めたと言うが実現しなかった。自らは2年前現職総理として初めて米空母に乗艦したのだからとの思いもあったのだろうが、ゴルフが優先された形となった。
 さらに脅威の旗振り役であった安倍が、それを口実に利用されトランプから貿易不均衡の是正やアメリカの雇用拡大を迫られると言う、皮肉な結果も生み出し、アメリカの言う北朝鮮の脅威は商売道具に過ぎないということも明らかとなった。
 また北朝鮮によって、今回は脇役に追いやられた形となった対中政策については、「自由で開かれたインド太平洋戦略」がうたわれた。これは日本政府が中国の「一帯一路」構想に対抗するためのスキームとして構想しているものであるが、オバマの「リバランス」戦略に変わるアジア政策を打ち出せていないトランプが、よくわからないままに乗っかったと言うのが実情の心もとないものである。
 
<独自路線の中国、韓国>
 貿易赤字の是正と武器購入の要求という所期の目的を達成したトランプは11月7日韓国へ向かった。韓国では文在寅との蜜月演出は無かったものの、8日韓国国会でトランプは「ならず者が核兵器で脅迫することは世界が許さない」と演説し、「韓国防衛のため」数十億ドルの武器売り込みに成功、原潜購入についての協議も開始されたと報じられた。
 ただ韓国は、日本の様に一方的な緊張拡大に走っているわけではない。文は再三「日本は軍事同盟の相手ではない」と発言、9月の米韓首脳会談の際にはトランプに直接伝えたと言う。こうしたことを踏まえ、11月中旬に日本海で行なわれた3隻の米空母との合同演習も、日米、米韓と別個に実施された。晩餐会では「独島エビ」が供され、元従軍慰安婦が招待され日韓の矛盾がアメリカに印象付けられた。
 また文政権は北朝鮮対応とされるTHAADミサイル配備問題で悪化した中国との関係においても関係改善に向け合意、さらに「自由で開かれたインド太平洋戦略」にも参加しないことを表明するなど、柔軟かつ現実的な政策を進めている。
 11月9日の米中首脳会談では北朝鮮に対する「国連安保理決議の完全な履行」で一致したものの、習近平は対話による解決の重要性を主張した。南シナ海問題でもトランプは航行の自由など原則は提起したものの、具体的行動には言及しなかった。
 首脳会談で強調されたのはやはり経済問題で、貿易不均衡や知的財産侵害問題は残されたものの、総額28兆円という商談が成立するなど両国の関係は一層深化した。漠然とした「自由で開かれたインド太平洋戦略」は問題にもならなかった。
 トランプのアジア歴訪前は「トランプの目的は日、韓、中から北朝鮮への先制攻撃の承認を取り付けることではないか」との観測も流れたが、そうした期待は裏切られ、トランプ初のアジア訪問は行商であったと記憶に残るであろう。
 軍事的見地からも北朝鮮の核を無能力化するには、地上軍の投入が必要と米統合参謀本部が議員に示しており、空母や爆撃機の派遣はデモンストレーションに過ぎないことをアメリカ軍が明らかにしているのである。北朝鮮も9月15日の弾道ミサイル試射以降沈黙を続けており、これについて韓国は、資金難や大気圏再突入可能な弾頭開発が停滞しているとの見方を示している。
 トランプ自身も歴訪中に中にトーンダウンしていき、韓国国会では「北朝鮮の明るい未来について話す用意がある」と表明、12日にはベトナムで「金正恩と友だちになれるかも」などとツィートするなど変化を見せてきている。この間米中韓日で具体的制裁を決定したのは日本だけであり、北朝鮮への対決を声高に叫ぶ安倍政権の異様さが、ひと際浮き彫りになったとも言えよう。
 
<アジアでは安倍一弱へ>
 アメリカと日、韓、中の二国間協議が終了したのち、国際会議の舞台はベトナム・ダナンでのAPEC、TPP、フィリピン・マニラでのASEAN、東アジアサミットなどの多国間会議に移った。トランプの後を追うようにベトナムに飛んだ安倍であったが、ここでの右往左往が際立った。
 日米首脳会談で2国間協議を要求された安倍政権は、ベトナムで茂木担当相の尻を叩き、11月9日の閣僚会議で「TPP11」改め「CPTPP」の大筋合意を発表させた。しかし見切り発車に怒ったカナダのトルドーが安倍に直接抗議し、首脳会合が開催できない異常事態となった。安倍はベトナム、フィリピンで日中、日露など17回の首脳会談をこなしたと自慢しているが、このような過密日程では中身のある会談であったとは考えられない。
 その内容も北朝鮮の脅威を吹聴するもので、これまで国際会議で固執していた強硬な中国非難は鳴りを潜め、法の支配など一般論に止まった。逆に習、李と相次いで会談し「自由で開かれたインド太平洋戦略」への中国参加や日本の「一帯一路」協力を示唆するなど、「日中関係の新たなスタート」と成果を言いつくろったが、米中協調が進む中、強硬路線の頓挫は明らかであり、「対北朝鮮のため」などは方便である。
 12日にはベトナム・ハノイ米越、中越の首脳会談が行われ、トランプは仲介に意欲を示したが、中越首脳は平和、安定の維持で一致した。こうした流れのなか16日のASEAN議長声明では、北朝鮮に対する重大な懸念は表明されたものの、南シナ海での中国に対する懸念は盛り込まれず、この地域における係争は中国優位で平和裏に収束する方向にある。
 安倍は、トランプ訪日に始まる一連の国際会議で北朝鮮を梃に、外交的影響力、とりわけ日中韓関係でのイニシア示そうとしたが、米韓、米中関係までは介入できなかったのである。アジアで孤立を深める安倍政権を国内でも同様に追い込まねばならない。(大阪O)