アサート No.396(2010年11月27日)

【投稿】 高速増殖炉「もんじゅ」の棺桶化が進むのか
                            福井 杉本達也 

1.『炉内中継装置』の落下事故
 高速増殖炉「もんじゅ」で8月26日に、原子炉容器内に据え付けていた『炉内中継装置』(長さ12m、直径55cm、重さ3.3t)の撤去作業中、装置を原子炉容器のナトリウム内に落としてしまった。原子力開発研究機構では、当初は簡単に吊りあげられるものと高をくくっていたが、炉内中継装置の上部管と下部管の継ぎ目部分が、落下による衝撃でつぶれ外側に5mm膨らんでいることが分かった。装置と装置を通すために『遮蔽プラグ』と呼ばれている原子炉の蓋に空けられている『スリーブ』と呼ばれる穴との隙間は2.5mmしかなく、この歪んだ部分が引っかかって抜けなくなっていることが分かった。原子力機構では、しかたがなく、このスリーブといわれる蓋の部品といっしょに中継装置を引き抜くことを決めた。

2.炉内中継装置とは
 炉内中継装置とはもんじゅ特有のものである。もんじゅでは原子炉を冷やし同時に発電用に熱を取り出す『冷却材』として液体ナトリウムを使用している(普通の原子炉=『軽水炉』では冷却材には水を使用する)。ところが、ナトリウムは取り扱いが厄介である。 常温で水・酸素と反応し、発火する。量が多いと爆発する。空気中の水分でも、コンクリートに含まれる水分でも反応する。普通の原子炉では、燃料の交換は原子炉の蓋を空けて燃料を格納容器の上部に設置してあるクレーンで吊りあげて交換する。ところが、もんじゅではナトリウムが空気と反応して爆発するので原子炉を開放しての燃料交換はできない。通常、もんじゅではナトリウムが空気と反応しないようにナトリウムの液面と蓋の隙間には不活性ガスであるアルゴンガスを封入している。そこで、蓋に『スリーブ』という小さめの穴を空け、そこに『炉内中継装置』という部品を差し込み、蓋の上部=炉外と炉内へのMOX燃料の出し入れをする。コーヒーカップを原子炉容器に見立てると、プラスチックの蓋があり、そこに小さな穴を空けてストローを入れる。炉内中継装置はこのストローに当たる。中のコーヒーはナトリウムである。だが、炉内中継装置はこのナトリウムを吸い上げるのではなく、ナトリウムに浸かっている燃料棒を引き上げる。しかし、炉外に出ると直接空気と接触する恐れがあるので、原子炉容器の階上にあり作業空間でもある格納容器内にこの装置をすっぽり包む『原子炉機器輸送ケーシング』(長さ約16m・直径約1m)という円搭型の部屋を用意する。燃料は液体ナトリウムにどっぷり浸かっているので、その表面にはナトリウムが付着しており、ケーシング内にもアルゴンガスを封入しておく。通常ならば引き上げた燃料は台車のついた『燃料出入装置』(アルゴンガスを封入した)に移し替えて格納容器外へ運び出す。ところが、今回、この肝心の中継装置が抜けなくなってしまったので、栓をされた容器と同じように燃料を出すことも入れることもできないにっちもさっちもいかない状態になったのである。

3.炉内中継装置を引き抜くことは可能か?
 炉内中継装置(3.3t)とスリーブ(3.6t)を一体で引き抜くには、これまでのケーシングでは小さすぎる。以下は全くの想定であるが、スリーブの直径は約2mであるから、それ以上の直径のものが必要となる。高さは16m〜20m、引き上げた部品をいったん横に置き、ナトリウムが漏れないように再び穴に栓をするなどの内部での作業性も考慮すれば、直径は最低でも5〜6mと原子炉容器に匹敵する巨大なものが必要である。しかも、2つの部品で6.9tもの荷重を吊り上げなければならない。現在のグリッパーと呼ばれるクレーンでは最大4.5tまでしか吊り上げることはできない。10t以上のクレーンを内部に設置する必要があり、構造体はそれだけ剛性が要求される。しかも、内部にはアルゴンガスを封入しておく必要があり、空気や水分が入らないよう気密性が要求される。さらにそこで、蓋のボルト外し、締め(溶断?)などの人的作業が必要となると、人はどのような格好でケーシング内で作業するのか。宇宙服のようなものでよいのか。狭い密閉された空間での最大限に危険な状況が想定される。しかも取り外した中継装置の下の部分はナトリウムが付着している。長さ12m・最大直径2mもの構造物をケーシングから空気に触れずにどのように外に運び出すかも考えねばならない。そのようなことが可能なのか。可能だとしてもいくら金が掛かるのか。数百億円になる恐れがある。

4.もんじゅは永久に”封印”されるのか
 一度機器の設計をしてみて、その金額の膨大さに躊躇してしまうのか、機器を製作しても再度引き抜きに失敗してしまうのか、はたまた、その恐れの間を逡巡するのか。原子力機構の倉本敦賀本部長は「同装置を引き抜いた後、原子炉内に損傷などがないか調査する必要はないとの認識を示したうえで、『40%出力試験の11年度中の開始は可能』と強調した」(福井:2010.11.18)が、出力試験など夢のまた夢=『妄想』である。ひょっとすると、もんじゅをこのままの状態で放置してしまおうという暴論も出てきかねない。しかし、炉内にはMOX燃料が入っており、ナトリウムは固化させるわけにはいかない。液体のままナトリウムを維持するには電熱器でナトリウムを常時暖めておく必要があり、もんじゅの維持管理費は1日約5500万円掛かるとみられ(朝日:2010.11.18)、年間で200億円にもなる。ところが、マスコミはこの重大な事故をほとんど報道しない。地元の福井新聞でさえその取り上げる紙面は小さい。14年間の中断がもんじゅへの関心を薄くしているともいえるし、都合の悪い事実にマスコミ全体が目を瞑る動きもある。さらに、報道の姿勢は原子力機構の発表をそのまま垂れ流しするだけで、それに対する質問・疑問・独自取材というものが全く見られない。特に普通の原発とは異なり、液体ナトリウムを扱うもんじゅは技術的解説記事が欠かせない。ところが、解説記事は一切見当たらない。福井新聞でもこの間、唯一「フォーカス福井」で「もんじゅトラブル・装置回収難航は必至」という企画を組んだだけである(福井:2010.10.15)。一方、経済界では福井商工会議所の川田会頭は北陸新幹線の福井県内着工問題と抱き合わせで「高速増殖炉『もんじゅ』の運転再開に当たって県が求める地域振興と『大いに絡めていきたい』」と述べている(福井:11.2)。 事故の重大性を指摘する発想は一切なく、儲かればいいとばかりに駆け引きの道具になってしまっている。なぜ、ここまで知的堕落が進んでしまったのか。もんじゅを”封印”しても原子炉内にはプルトニウムを含んだMOX燃料と放射能を浴びた大量の液体ナトリウムが残る。それを永遠に管理することなどできはしない。このままでは「白木地区」は、「敦賀市」は、そして「福井県」はもんじゅの生き埋めの墓場になる。壮大な無駄かつ危険なもんじゅをこれ以上運転させてもならないが、”封印”させてもならない。 

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